Casting(キャスティング)とは「鋳造」技法の意味です。「鋳物」というとわかりやすいでしょうか?
金属の鋳造は、高温で融けた液状の金属を型の中に一気に流し込む方法で行われます。
一方、ガラスには融点がないため「液体になる」ということがありません。温度を上げていくと徐々に柔らかくなっていき、また、温度をさげていくと少しずつ硬くなっていく、という性質を持ちます。(こういう性質をもつものを「非晶質」というと大学で教わりました)
そのため、融けたガラスを一気に流し込む、ということができず(※1)、型の中で時間をかけてガラスを柔らかくしていき型に充填する、という方法となります。
高温で時間をかけるため、型につかう石膏も通常のものではなく「耐火石膏」という熱に強いものを利用します。
どのくらいの温度が必要?
何度まで温度をあげるかというと、使用するガラスの種類によっても違いますし(※2)、型の大きさ、細かさなどによっても調整が必要ですが、岩瀬はおおむね850℃~880℃くらいで2~3時間温度を維持して型にガラスが入り込むのを待ちます。
では、ガラスが柔らかくなる温度や時間だけを気にすればよいかというと、そうではありません。
温度を上げていく際も、あまり急激に温度をあげると石膏型が割れたりひびが入ったりしてしまいます。また、型に含まれた水分を十分に蒸発させて乾燥させることも必要です。しかしそれよりも重要なのが、温度を下げるときです。
柔らかくなっているガラスの温度を急激に下げると、歪みが発生して割れてしまったり、後から割れやすくなってしまったりするのです。
なぜ時間をかけて温度を下げる(徐冷する)のか
これはどういうことかというと、ガラスは柔らかくなっているときに少し体積が膨張するという性質があります(水は凍った時に膨張するので反対ですね)。
その少し膨張しているガラスを急激に冷やすとどうなるかというと、表面から先に硬くなっていきます。一方、内側はまだ柔らかいままなので膨張しています。その内側が冷えていくときに縮もうとするのですが、外側はすでに冷えているので縮みません。そこで縮もうとする力とそのままでいようとする力が引っ張りあって、割れたり、ちょっとした衝撃で割れやすい歪みをもったガラスになるのです。ですから、大きなものほど、厚みのあるものほど、厚みに差があるものほど、内側と外側、すべての部分が同じ速度で冷え、同じ速度で縮んでいけるようにゆ~っくり温度をさげる必要があるのです。
そのため、電気炉にガラスと型を入れてから、小さいものでも2日以上、大きなサイズの作品では4~5日かけることもあります。
ちょっと手のかかる素材です。でもその分面白さもあります。
※1 吹きガラスと同じ温度まで柔らかくしたガラスを、砂で作った型に流し込むという「サンドキャスティング」という方法もありますが、あまり細部の再現度は高くありません。
※2 例えば、クリスタルガラス(鉛ガラス)は低めの温度で柔らかくなるし、ソーダガラスはそれよりも高温が必要。また、リサイクル目的で割れたガラス瓶などを利用する場合、もっと高温が必要になります。